概要・目的
遺伝子発現は、DNAにコードされたゲノム情報、DNAのメチル化、ヒストンのリン酸化・アセチル化・メチル化などクロマチン修飾で調節されるエピゲノム情報、そして転写因子作用など、これらが形成する転写環境によって制御される。このような転写環境は、シグナル伝達経路や核内複合体と連動して、細胞種特有のアイデンティティーの確立や増殖・分化などの多様な細胞機能に深く関係している。一方、細胞のエネルギー代謝は、その増殖状態や分化段階によりダイナミックに制御され、恒常性維持や新しい定常状態への移行を実現している。その際、解糖系、TCAサイクルやメチオニン回路などの代謝産物 (=生命素子 [hub metabolites]; ATP、SAM [S-adenosylmethionine]、NAD+、FAD、α-ketoglutarate等) の一部は、転写環境の形成にも利用されている。
そこで、転写環境の構築とエネルギー代謝のクロストーク制御を理解するアプローチとして、修飾基転移酵素による書き込み(Writing)、アダプター分子による修飾基の読取り(Reading)、脱修飾酵素による消去(Erasing)や、クロマチン修復による書換え(Rewriting)等のメカニズムに着目する。本領域では、それらの複合体ネットワークや標的遺伝子発現に関する転写代謝システムの解明を目指し、転写環境が代謝に働きかける作用、あるいは、細胞・個体内外の刺激によって生じる代謝の変化が転写環境の構築に及ぼす作用を明らかにすることを目的とする。